厳重注意事項
「日常生活」を「改善」しなければ、治療が「水の泡」になるほどの大切なこと
たとえて表現するなら、ヤカンに火をかけて一生懸命にお湯を沸かしている最中に、上から冷や水を注ぐような行為です。ここでいう「冷や水」とは「日常生活における体にとっての無理なこと」を指します。
つまり、治療とは別に、日常生活の改善も非常に大切であると言いたいのです。
「治療」と「日常生活の改善」は、痛みをとるための両輪なのです。
日常生活を改善しなければ、治るスピードがかなり落ちますし、治ったとしても時期が来れば再発します。そして、再発のたびに病根が深くなるために、最終的にかなり難儀な慢性痛に至ることもめずらしくありません。
では無理な事とは、どんなことを指すのでしょうか? 実はこれが、非常に難しいのです。しかし、これを理解しないと、特に慢性痛の期間が長い方は十中八九良くなません。そればかりが、治療で、改善させればさせるほど、逆に悪化していくことさえあります。つまり、たき火を例にすると、燃えている火に、いきなり、大きい薪をくべて火を消したり小さくしてしまい、その後なんとか燃えだしたら、もう大丈夫だろう勘違いし、また大きすぎる薪をくべる・・・、それをずっと繰り返してしまうような感じと言えます。ただ、問題なのは、たき火をしたことがない方の場合、薪の大きさがちょうどいいのかどうかすらも分からないことです。ここが難しいところなのです。
たき火を大きく燃やすためには(鍼灸治療を効果的に行うためには)、「雨の当たらない環境(生活環境)」と、「乾いた薪や点火装置(個々に合わせた針ともぐさ)」、「燃やす手順・技術(鍼灸学術)」が必要です。
自分の生活スタイルを変えないままに、治療をしても治らない治らないとおっしゃる方も大変に多いのですが、それは、道具や、技術はそろっているのに、雨でずぶぬれの中で火を起そうとしているのと同義なのです。それはもう治る訳がありません。
無理は自覚しにくいものなのです
それを深く考えたことがない場合、何が無理なことなのか、なかなか理解できません。なぜなら、客観的には無理なことだと思われることでも、主観的には、それが無理なことだとは思いもしないし、そんなことは寝耳に水だということもよくあります。
以前五十肩が発症し半年以上治まらずに当院を受診した方がいますが、その方も、無理なことが何なのか全く理解していませんでした。
治療をして少し改善したかと思と、その後悪化、また少し良くなったかと思うと、また悪化・・・それの繰り返し・・・。無理なことをしてませんかと聞いても、していないの一点張り・・・。そこで、行動を詳しく分析するために根掘り葉掘りと行動内容を調査しました。そうしたら、出るは出るは、無理なことばかりしていました。
そこで、「無理をしないように」とは具体的にはどんなこと?と疑問が寄せられていますので、回答いたします。
日常生活においての動きを押さえるということです。普通に歩く時でさえも少しゆっくり歩くなど意識していただかなければならないようなこともございます。
痛みが激しい時は意識しなくても動けないので自分では動いているようでも健康な時と比較すれば動いていないものです。
問題は、治りかけた時や、治った時です。このように回復してくると自然と無意識に歩くだけでもスピードが上がっていたりするのです。
このようにすぐに通常の日常生活に戻ると痛みがそれまでよりも激しくぶり返すことがあります。
つまり、日常生活や仕事に趣味等これまでなんとも思わなかった普通の事が、実は、平均的な人の活動よりも激しかったりしていたのです。
特に腰部脊柱管狭窄症などの症状に至っておられる方は活動的な方が多いのが概ね共通の特性のようですが、自分では無理をした覚えが一切ないのになぜこのような病気になるのかと疑問に思われたりします。
平均的な人と比較した場合かなり活動的な人なのに、自分ではちっとも活動的などとは思っていなかったりするのです。
活動的な方の場合、運動などで悪化させている時でさえも「私は無理をしていない」と言われます。
この事のご理解は非常に難しいところですが、どうかご理解いただきたいと存じます。
無理をしないようにとは、症状が改善して普通に動けるようになった時でもしばらくは意識的にゆっくり歩くなどして養生に心がけたり、痛みの強い時には趣味やスポーツそして筋トレなどを絶対にしないように心がけることです。ストレッチやヨガですら体に障る事だって多々あります。
ただし仕事は休めませんので時々休憩を取りながらでもだましだましに行う必要がございますが・・・。
治るまでには、時間もかかりますし、治すという明確な根性と根気も必要ですが、最終的には痛みのない普通の日常生活を取り戻すことが100%ではないとしてもできるようになると思いますので、悲観することなく、しっかりとした鍼灸治療と無理のない生活を続けていただければと存じます。
無理をしない人のお手本のような人
- 運動は大嫌いで、読書などが大好き。
- 一切運動をしないにも関わらず、90歳を過ぎても、健康でピンピンしており、寝たきりにもならない。
- 運動をしないので当然筋肉量は少ないが、だからと言って、たいして痛いところもない。
ここまで極端に運動をしないのははっきり言って問題ですが、痛みもかなり強く慢性的に患っている方には、このような行動が大いに参考になります。
これ、実は亡くなった私の祖父のことです。最後は老衰で大往生でしたが、まあ、ピンピンころりに近かったです。
「運動をしないとすぐに寝たきりになる」とのご心配は十分に理解できますが、一方では、運動もしないのに痛いところもなく、寝たきりにならずに生き抜いた祖父のような人もいるとご理解いただければと存じます。