間欠性跛行 による歩行困難がある方は、ぜひ、ご一読ください。朗報です。
このページは、論文「腰部脊柱管狭窄症による間欠跛行に対する陰部神経鍼通電刺激の試み」に示された医学的根拠(EBM:evidence based medicine)のある馬尾神経性間欠性跛行の鍼灸治療と、高野鍼灸リラクセーションの脊柱管狭窄症及び間欠性跛行の鍼灸治療をミックス&最適化し、医学的根拠ある鍼灸治療にブラッシュアップさせた治療方法のページです。
医学的根拠のある間欠性跛行の鍼灸治療は、医師(医師免許:国家資格)、はり師(はり師免許:国家資格)の2者しか行うことができません。
私はこの論文をかなり前に発掘しましたが、ほとんど世の中で活用されていないと思われるこの素晴らしい論文(宝)による間欠性跛行の鍼灸治療方法を世に知らしめ、医師及び鍼灸師にご活用いただき、間欠性跛行に苦しむ患者様の助けにしていただけないかなと考えています。 また、患者様も、間欠性跛行の鍼灸治療には学術論文があり、有効性もきちんと示されていることを知っていただければ希望も持てるのではないかと考えています。
まず論文の歩行距離改善結果より
まずは、医学論文として公表されている「間欠性跛行」に対する医学的根拠のある鍼灸治療による、症例の結果をご覧ください。
症例1の歩行距離・改善結果
施術回数23回(侠脊穴置鍼+陰部神経への低周波置鍼)
※必要な施術回数には個人差があります。
症例2の歩行距離・改善結果
施術回数3回(陰部神経への低周波置鍼)
※数字が動かないときはリロード(ページ再読み込み)を行ってください。
※必要な施術回数には個人差があります。
症例3の歩行距離・改善結果
施術回数10回(陰部神経への低周波置鍼)
※数字が動かないときはリロード(ページ再読み込み)を行ってください。
※必要な施術回数には個人差があります。
症例4の歩行距離・改善結果
施術回数3回(陰部神経への低周波置鍼)
※数字が動かないときはリロード(ページ再読み込み)を行ってください。
※必要な施術回数には個人差があります。
間欠性跛行とは?
間欠性跛行は、脊柱管狭窄症などの症状で起こり、神経の圧迫される場所で馬尾神経性、神経根性、その両方の混合性に分けられます。
この疾患の症状は、腰から足にけて痛み・しびれを起こさせ、歩くと痛みしびれがひどくなり、限界を迎えるとしゃがみ込み、しばらく休息をとってまた歩き出すものの、再び痛みしびれで歩けなくなり、また休憩すると歩けだす・・・・という風に、歩いては休み、歩いては休みという症状が特徴です。
なぞそのような症状を起こさせるのかというと、馬尾神経や坐骨神経などの末梢神経を圧迫し、神経の血流量が低下しているのに、歩くと神経の酸素供給量も低下するためと言われています。
この医学的学術研究論文では、間欠性跛行のために開発された鍼治療がなぜ症状を改善させるのか医科学的に解明しよう試みています。
間欠性跛行の論文
腰部脊柱管狭窄症による間欠跛行に対する陰部神経鍼通電刺激の試み
参照元:J-STAGE/全日本鍼灸学会雑誌/50巻(2000)2号
井上 基浩:明治鍼灸大学臨床鍼灸医学教室
北條 達也:明治鍼灸大学整形外科学教室
池内 隆治:明治鍼灸大学臨床鍼灸医学教室
片山 憲史:明治鍼灸大学臨床鍼灸医学教室
越智 秀樹:明治鍼灸大学臨床鍼灸医学教室
勝見 泰和:明治鍼灸大学整形外科学教室
(引用開始)
論文の治療方法
週1回~2週1回の割合
治療部位、刺す深さ・時間・術式、使用する鍼の種類とその他機器
1回目~20回目
- (3~4cm刺入:10分間置鍼)3腰椎~第1仙椎棘突起外方2㎝にある侠脊穴(ツボ)刺鍼
- (3~4cm刺入:10分間置鍼)大・中殿筋境界部刺鍼
- (3~4cm刺入:10分間置鍼)梨状筋部刺鍼
- (1~4cm刺入:10分間置鍼)大腿後面中央の大腿二頭筋部刺鍼
- (1~4cm刺入:10分間置鍼)腓骨頭直下の腸腓骨筋部刺鍼
- 使用する鍼:ステンレス製 直径0.18㎜ 長さ40㎜ 使い捨て鍼
21回目以降
- 1回目~20回目の治療部位に刺鍼
- (5~6cm刺入:10分間置鍼・10分間2Hz鍼通電)陰部神経ポイント刺鍼
- 使用する鍼:ステンレス製 直径0.30㎜ 長さ60㎜ 使い捨て鍼
- 低周波通電装置
論文の評価方法
1)痛みとしびれの評価
Numerical Rating Scale(NRS):この論文ではNumerical Scaleと略されている。
- NRS 痛みの評価を0~10の11段階として、最悪の痛みを10とする。この論文では初診時の痛みとしびれを、それぞれ、最悪の痛み、最悪のしびれとして評価している。
2)歩行距離の評価
治療ごとに、下肢の脱力・跛行が生じるまでの歩行距離を自己申告により確認。
論文の初診時症例
症例1
- 間欠性跛行が生じるまでの距離:100メートル。
- 症状:右殿部~太もも外側の痛み、右ふくらはぎ外側のしびれと間欠性跛行。
- 画像診断:レントゲン・MRIによる腰部脊柱管狭窄症。
- 治療法 侠脊穴置鍼10分+陰部神経刺鍼通電10分の併用。
症例2
- 間欠性跛行が生じるまでの距離:250メートル。
- 症状:腰部~下肢外側の痛みしびれと間欠性跛行。
- 画像診断:レントゲン・MRIによる腰部脊柱管狭窄症。
- 治療法 陰部神経刺鍼通電10分のみ。
症例3
- 間欠性跛行が生じるまでの距離:100メートル。
- 症状:腰部~両側下肢後側の痛み、両ふくらはぎ外側のしびれと間欠性跛行。
- 画像診断:レントゲン・MRIによる腰部脊柱管狭窄症。
- 治療法 陰部神経刺鍼通電10分のみ。
症例4
- 間欠性跛行が生じるまでの距離:100メートル。
- 症状:下肢外側8/10の知覚鈍麻と間欠性跛行。
- 画像診断:レントゲン・MRIによる腰部脊柱管狭窄症。
- 治療法 陰部神経刺鍼通電10分のみ。
論文の結果(各症例の結果)
症例1
治療20回目までは変化なし
治療21回目より陰部神経低周波通電置鍼(10分)開始
治療23回目の痛みしびれのNRS10→2
治療24回目の痛みしびれのNRS10→0
治療24回目、間欠性跛行も消失
症例1 陰部神経鍼通電による痛みの変化
症例1 陰部神経鍼通電によるしびれの変化
症例1 陰部神経鍼通電による歩行距離の変化
症例2・3
治療1回目の後より下肢の痛みしびれが低下し始め、歩行距離も伸びる。
症例2は、治療3回で歩行距離が約250m→約1,450mに伸びる。
症例3は、治療10回で歩行距離が約100m→約1,400mに伸びる。
症例4
治療2回目の後より下肢の痛みしびれが低下し始め、歩行距離も伸びる。
治療3回で歩行距離が約100m→約600mに伸びる。
症例2・3・4の歩行距離の変化
論文の理論
脊柱管狭窄症の特徴的症状である馬尾神経性の間欠性跛行は、狭窄により神経への血液の供給が悪くなっているところに、歩行という下肢の筋肉を動かさなければならなくなり、その必要な神経活動のための酸素供給量が追い付かずに、発症すると考えられています。
そこで、鍼治療により馬尾神経及び坐骨神経への血液供給量を増やすことができれば、有効な治療法になると考え、実験系ラットでその証明をしようと実験したところ、ラットの陰部神経へ直に流した電気刺激により坐骨神経の血流量の増加が確認されたのです。
理論の証明方法
実験系ラットの陰部神経への電気刺激による坐骨神経の血流量増加は、自律神経の副交感神経の反応によるものと推察されるので、それを証明するための実験です。
ラットの陰部神経への電気刺激
- ラットの陰部神経に電気刺激を行う。
- 1)によりラットの坐骨神経の血流量が増加したことを確認。
- この血流量増加が副交感神経由来であることを証明するために、抗コリン物質であるアトロピンを投与し、副交感神経の節後線維の最終効果器であるムスカリン受容体へのアセチルコリンの伝達を遮断。
- 副交感神経の機能を停止させ、交感神経の機能のみになり血管が収縮。
- 陰部神経への電気刺激による坐骨神経血流量消失。
ラットの陰部神経への電気刺激後のアトロピンを投与時の血流量
ラットの坐骨神経への電気刺激
- ラットの坐骨神経への電気刺激を行う
- 1)によりラットの坐骨神経への血流量が増加したことを確認。
- この血流量増加が副交感神経由来であることを証明するために、抗コリン物質であるアトロピンを投与し、副交感神経の節後線維の最終効果器であるムスカリン受容体へのアセチルコリンの伝達を遮断します。
- 副交感神経の機能を停止させ、交感神経の機能のみになり血管が収縮する予定。
- 坐骨神経への電気刺激による坐骨神経血流量やや消失。しかし、血流量は、アトロピンを投与した後も結構維持している。これは、副交感神経性の血流量増加とは別に、軸索反射による血管拡張による血流改善も同時になされたからであると考えられます。
ラットの坐骨神経への電気刺激後のアトロピンを投与時の血流量
副交感神経遮断薬の補足
※高野義道による補足
抗コリン薬はムスカリン受容体のみに選択的に作用させなければなりません。なぜなら、自律神経の節前線維と節後線維のシナプス(ニコチン受容体)の神経伝達物質は交感・副交感神経ともにアセチルコリンなので、節前節後シナプスであるニコチン受容体にも作用する抗コリン物質である場合、自律神経の全機能を停止させるためにラットの生命を絶つことにもつながるので、必ずムスカリン性アセチルコリン受容体を選択的に抑制させる副交感神経遮断薬つまり抗コリン薬である必要があります。例えば人に使用するアレルギー薬である抗コリン薬も当然のことながらムスカリン受容体のみに作用させる薬なのです。
その他の論文の結果と論文の考察
- ラットの陰部神経電気刺激により副交感性と考えられる一時的な血流増加が認められました。
- ラットの陰部神経電気刺激終了後にも継続的な坐骨神経血流量の増加が起こっているわけではありませんが、一時的な神経血流の増加が間欠跛行を含めた症状の緩和につながった可能性が示唆されました。
- ラットの侠脊穴への施鍼による坐骨神経血流の増加は60%でした。残りの40%には減少あるいは変化がなかったことから、侠脊穴への刺鍼による改善には個体差があることが考えられます。ただ、60%は改善するので侠脊穴への刺鍼も有効ではあります。これは、アトロピンを投与したのに神経の血流量が消失すこともなくやや減弱にとどまったことから、軸索反射による神経への血流増加があったと考察できます。
- しかし、陰部神経などの末梢神経への直接的な電気刺激のような安定的な刺激の方が有効であった可能性が考えられます。
- これらの事より、陰部神経への電気刺激は副交感性の神経血流量増加を示し、侠脊穴や坐骨神経への電気刺激は副交感性及び軸索反射性の神経血流量増加を示したことと考察できます。
- 人に対する、陰部神経への刺激は仙結節靭帯を鍼が貫通するときの痛みが治療後も持続する傾向があり、また、陰部への強烈な刺激感も出現するため患者様への強い不快感を与えるリスクを有します。
- したがって、第一に刺激感の少ない侠脊穴へ治療をした方が良いとおもわれます。
- 侠脊穴への刺鍼で明らかな効果が出なかった場合に、「陰部神経鍼通電療法」を用いることが望ましいです。
- 今回の人4症例の鍼治療では陰部への刺激感を指標に陰部神経鍼通電刺激を行いましたが、陰部神経以外の組織にも同時に刺激されたことは否定できません。
- この研究の目的は、脊柱管狭窄症による間欠性跛行に対しての新たな治療法の試みとしての陰部神経鍼通電刺激の効果を確認するものなので、馬尾型、神経根型及びそれらの混合型を厳密に区別していません。
- 人の陰部神経への鍼通電刺激は、症例1で著しい歩行距離の延長を認めました。
- 症例2.3.4でも歩行距離の延長を認めました。
- 最終的に、陰部神経鍼通電療法により、全症例で歩行距離を延長するという有効性を確認できました。
(引用ここまで)
論文を分析した高野義道の考察
陰部神経への鍼通電療法は、副交感神経性の血流改善をおこさせ、坐骨神経への鍼通電療法と侠脊穴への置鍼は、副交感神経性血流改善と、軸索反射性血流改善を起こさせています。
この2つの考え方の治療方法は同時に行った方が良いのではないかと思います。
論文では、侠脊穴への鍼治療を試みた後に、間欠性跛行に明らかな改善が認められないときに陰部神経鍼通電療法をした方が良いと結論付けられていましたが、研究の結果を見ると、陰部神経鍼通電療法の改善にはすさまじいパワーがありますので、初めから陰部神経鍼通電療法も試みた方が、患者様の通院の負担や費用の負担が軽くなるのではないかと思われます。
論文の具体的施術方法
陰部神経鍼通電療法
- 陰部神経ポイント刺鍼(5~6cm刺入:10分間置鍼・10分間2Hz鍼通電)
- 使用する鍼:ステンレス製 直径0.30㎜ 長さ60㎜ 使い捨て鍼
- 低周波通電装置も使用する
陰部神経と坐骨神経の近くに鍼を打ち、その鍼に低周波を2Hzで10分間通電します。
侠脊穴、大殿筋・中殿筋境界部、梨状筋部その他への鍼治療
- (3~4cm刺入:10分間置鍼)3腰椎~第1仙椎棘突起外方2㎝にある侠脊穴(ツボ)刺鍼
- (3~4cm刺入:10分間置鍼)大・中殿筋境界部刺鍼
- (3~4cm刺入:10分間置鍼)梨状筋部刺鍼
- (1~4cm刺入:10分間置鍼)大腿後面中央の大腿二頭筋部刺鍼
- (1~4cm刺入:10分間置鍼)腓骨頭直下の腸腓骨筋部刺鍼
- 使用する鍼:ステンレス製 直径0.18㎜ 長さ40㎜ 使い捨て鍼
高野鍼灸エコーガイド下神経周囲リリース鍼
エコーで殿部の内部を確認しながら、仙結節靭帯、仙棘靭帯を確認し、陰部神経や坐骨神経の近傍に鍼を刺入します。
論文の施術と高野鍼灸リラクセーションの施術の融合
エコーガイド下陰部神経&坐骨神経周囲ファシアリリース鍼通電療法と名付けました。
医学的根拠のある間欠性跛行の鍼灸治療を、超音波エコーを用いて確実に行います。